後継者のことを誰かに相談しようと思ったとき、最初に相談した相手によって、机に乗る選択肢の範囲が変わります。
取引銀行に相談すれば買い手を紹介する話になり、届いたダイレクトメールのM&A仲介会社に電話すれば会社を譲る話になります。これは相手の誠実さや能力の差ではありません。それぞれの報酬が、何が成立したときに発生するかが違うからです。
だから最初の一本の電話の前に、相談先が五種類あることと、それぞれが何を言いにくいのかを知っておく価値があります。
相談先は五種類ある
1. M&A仲介会社
売り手と買い手の間に立つ会社です。買い手候補のリストを持っていて、話を持ってきてくれます。中小企業の会社譲渡では、いちばん数が多い相談先です。
報酬は、基本的に成約したときに発生します。 しかも売り手と買い手の双方から受け取る形(業界では「両手」と呼ばれます)が少なくありません。
※ 仲介とFAの違い: 仲介は売り手と買い手の間に立って話をまとめる立場です。FAは、どちらか一方だけの側につく立場です。間に立つ人は両方の納得点を探しますが、片側につく人は自分の依頼者の条件だけを見ます。
2. FA(ファイナンシャル・アドバイザー)
オーナー側だけにつく助言者です。価格や条件の交渉で、売り手の利益だけを見て動きます。報酬は着手金と月額、そして成約時の手数料を組み合わせる形が多く、仲介より初期費用がかかる傾向があります。
規模の大きい案件や、買い手候補が既に見えている案件で使われます。
3. 取引銀行・信用金庫
会社の数字を何年も見てきた相手です。地域の買い手の情報も持っています。紹介を受けられるのは大きな利点です。
一方で、銀行は融資と取引の継続も同時に見ています。 承継の形が決まると、借入の引受や個人保証の扱いも動きます。それ自体は当然のことですが、「会社の形をどうするか」の相談相手としては、立場が一つに絞れません。
4. 事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)
国が各都道府県に置いている公的な相談窓口です。無料で相談でき、成約で報酬を得る立場にありません。 だから「売る」以外の答えも普通に出てきます。規模の小さな会社の相談にも応じます。
最初の整理には向いています。ただし、買い手を探す動きの速さや、経営者候補を外から連れてくる機能は、民間ほどではありません。
5. ヘッドハンター(エグゼクティブサーチ)
会社を譲るのではなく、外から経営者を入れて会社を残す道を扱う相談先です。株主はオーナーのまま、社長だけを外から迎える形も、譲渡を前提に新しい経営者を探す形もあります。
この相談先は、株式の譲渡を成立させることでは報酬を得ません。だから譲渡の是非そのものには中立ですが、逆に買い手を探す機能は持っていません。
なぜ相談相手で結論が変わるのか
五つを並べると、構造が見えてきます。成約で報酬が発生する相手に相談すると、成約する形が議題の中心になります。
M&A仲介に相談して「外から社長を招いて、株は持ち続けたらどうか」という案が最初に出てくることは、仕組みのうえで起こりにくい。銀行に相談して「借入を増やして自社で後継者を育てる」話が中心になることも少ない。これは誰かが不誠実なのではなく、それぞれが得意な形で解こうとするからです。
だからオーナー側がやることは、相手を疑うことではありません。自分が何を残したいのかを、相談の前に決めておくことです。
- 社名を残したいのか
- 社員の雇用を残したいのか
- 取引先との関係を残したいのか
- 自分の居場所を残したいのか
- 創業家の株を残したいのか
この五つのどれを優先するかで、適した相談先が変わります。社名と雇用が最優先なら、買い手探しの前に経営者を探す道が机に乗ります。株の整理と相続が最優先なら、税の専門家が先に入ります。順番が逆になると、先に走り出した話に自分の優先順位を合わせることになります。
契約の前に確かめる三つ
どの民間の相談先でも、契約書を交わす前に三つを確かめてください。どれも「聞いてはいけないこと」ではありません。説明を求めて渋られるようなら、その一点だけで相手を選び直す理由になります。
1. 専任なのか、他にも相談できるのか
一社だけに任せる契約(専任専属)だと、契約期間中は他の会社に相談できません。期間が何か月か、途中で解約できるかを確かめます。最初の一社を専任で決めてしまうと、比較する材料が手に入らなくなります。
2. 手数料は「何に対して」何パーセントか
成約時の手数料は、段階的に料率が下がる形(レーマン方式と呼ばれます)が一般的です。確かめるべきは料率ではなく、何を基準額にするかです。
※ 基準額で金額が変わります: 「株式の売買価格」を基準にするか、「移動総資産(株式の価格+引き継がれる借入などの負債)」を基準にするかで、同じ料率でも手数料の金額が変わります。借入のある会社では差が小さくありません。見積りではなく、契約書の文言で確かめてください。
3. 契約が終わったあとの期間(テール条項)
契約が終了した後でも、その会社が紹介した相手と成立した場合は手数料が発生する、という条項です。期間が何年か、対象になる買い手の範囲はどこまでかを確かめます。ここを見ないまま別の相談先に移ると、二重に手数料が発生する形になり得ます。
相談の順番
相談先を選ぶ前に済ませておくと、どの相手と話しても話が速くなるものがあります。
第一に、株が揃っているかどうか。 先代の兄弟や元役員に株が散っていると、誰に相談しても同じところで止まります。先に集約の見通しを立てておきます(後継者が決まっても、株が揃っていなければ渡せない)。
第二に、会社と個人のお金が分かれているかどうか。 社長個人への貸付や、個人名義の不動産を会社が使っている状態は、どの形の承継でも先に整理が必要になります。個人保証の扱いも同じです(会社を譲っても、社長個人の連帯保証は自動では外れない)。
第三に、自分がどこにいるかを決めておく。 会長として残るのか、顧問になるのか、完全に退くのか。これが決まっていないと、相手は条件を組めません(社長を譲ったあと、自分はどこにいるか)。
そのうえで、二社から三社に当たってください。 一社の説明だけでは、提示された条件が相場なのか判断できません。公的な窓口を一つ混ぜると、民間の説明を別の角度から確かめられます。
「売る」以外の形も、同じ机に乗せておく
承継の相談が早い段階で譲渡の話に寄っていくのは、相談先の多くが譲渡を扱う会社だからです。けれども選べる形は譲渡だけではありません。
親族に継げる人がいない、社内の幹部にも見当たらない——その段階で検討できるのが、外から経営者を迎えて会社を残すという形です。株をどうするかとは別の問題として、先に「経営を引き受けられる人がいるのか」を確かめられます。
当社は、PEファンドの投資先や事業承継など、公にならない経営ポジションを扱っています。後継者を外から探すという形については後継者をお探しの方へに、何から考えるかを整理しています。時期の考え方は後継者探しのベストなタイミングにあります。
まとめ
- 相談先は仲介・FA・銀行・公的機関・ヘッドハンターの五種類。成約で報酬が発生する相手に相談すると、成約する形が議題の中心になる
- だから相談の前に、社名・雇用・取引先・自分の居場所・株のどれを優先するかを決めておく
- 契約前に確かめるのは、専任かどうか/手数料の基準額が株式価格か移動総資産か/テール条項の期間と範囲の三つ
- 株の集約、会社と個人のお金の分離、自分の居場所を先に片づけると、どの相手と話しても速い
- 一社の説明で決めない。二社から三社に当たり、公的な窓口を一つ混ぜる
