50:50の共同運営で切り出した会社の社長に要るのは、事業を伸ばした実績ではない。株主が二社あって、どちらも単独では決められない会社で、決まる状態を作った経験である。

単独支配の投資先と同じ要件定義で探すと、この型はほぼ外す。経歴書の見え方が同じでも、求められる動きが違う。違いはすべて「決裁の最終審が二つある」という一点から派生する。

報道された事実を材料に、この型で要件定義・選考・報酬をどう組むかを具体に落とす。

報道された事実

マールオンラインの報道によると、三菱電機<6503>は自動車機器事業に関する権利義務を会社分割(吸収分割)で子会社の三菱電機モビリティ(東京都千代田区)へ承継させたうえで、同社株式の50%を台湾・鴻海精密工業傘下の投資会社 Lin Yin International Investment へ譲渡する。

  • 譲渡価額は1150億円、譲渡予定日は2027年10月
  • 譲渡後は両社による共同運営体制へ移行し、三菱電機モビリティは2028年3月期から持分法適用会社となる見込み
  • 国内外のグループ会社が保有する関連事業の権利義務も、同社またはその子会社へ移す
  • 両社は2026年4月に、対象事業の共同運営を通じた戦略的提携の検討を公表していた
  • 狙いは、両社の技術・開発力と市場展開力を組み合わせたEV向けプラットフォームの提供とされる

以下は公開情報からの推測であり、当事者の非公開の意図や人事を知る立場にはない。この設計自体は合理的なものとして読める。採点ではなく、同じ型の案件で自分が経営体制を組むときに何を決めるか、という話として書く。

50:50は、社長の仕事の中身を三つの点で変える

決裁の最終審が二つある

単独支配の投資先では、社長が決められないものは株主に上げれば決まる。50:50では、上げた先が二つに分かれる。両方が同じ結論に至るまで、案件は止まったまま残る。しかも止まっていることは議事録に残らない。 否決は記録されるが、議題にならなかったものは何も残らない。

だから社長の時間の使い方が変わる。決めることよりも、二社が同じ材料を同じ順序で見る状態を作ることに時間が要る。ここを「調整業務」と読んで要件から外すと、着任後に事業の時間が消える。

二社の時計が違う

事業会社側は、技術と製品が自社の事業に実装される時点を見る。投資側は、回収の期限から逆算して企業価値が上がる時点を見る。どちらも正しい。しかし同じ四半期に両方を満たす施策は多くない。

優先順位の衝突は、株主間で起きる前に社長の手元で起きる。 株主間契約に書けるのは拒否権と手続きであって、「今期どちらを優先するか」は書けない。

どちらも連結しない

持分法適用になれば、どちらの株主の損益計算書にも、この事業の売上は並ばない。構造上、「自社の数字として面倒を見る親会社」が不在になる。

カーブアウトで必ず落ちる間接機能——与信枠、IT、採用、法務のレビュー、人事制度——は、ここで「どちらの負担か」という論点に化けて止まりやすい。機能を自前で作る話はカーブアウトを既存経営陣に託すとき、最初に壊れるのは事業ではないに書いたが、50:50ではその上に「誰が払うか」の合意形成が一段乗る。

要件定義で置き換えるもの

「事業を伸ばした実績」を、「権限が足りない状態で、他者の決裁を通して動かした実績」に置き換える。

経歴として現れる形は限られている。合弁会社や持分法会社の経営、親会社と現地資本の間に立つ海外法人の代表、取締役会で少数株主と対峙した経験、本社と事業部の予算が正面から衝突する位置での職責。このいずれかを通っている候補は、二つの最終審がある状態を知っている。

「決断力がある」を、「決め方を設計できる」に置き換える。 決断力の強い候補は単独支配の投資先では機能するが、50:50では株主の一方を敵に回しやすい。要件に書くべきは決める速さではなく、決まる順序を作れることである。

業界経験の重みは下げてよい。技術の文脈は要るが、この型の失敗は技術の理解不足からは起きにくい。

そして要件定義の初手として、両株主に「拒否権の一覧」を先に書き出させる。 何が株主の合意事項で、何が社長の専決かが紙になっていない状態で人を探し始めると、候補者に説明できる職務が存在しない。この一覧は、後述する報酬設計と選考の両方の前提になる。

選考で確かめる四つの問い

1. 「株主が二社とも反対していない、しかしどちらも賛成していない案件を、どう前に進めますか」

合意を設計できる人は、材料の出し方と順序の話をする。できない人は「説得」の話をする。

2. 「二社の優先順位が割れたとき、何を基準に決めますか」

事業計画と株主間契約のどこに戻るかを具体に言えるか。「両社の利益になる道を探す」と答える候補は、まだこの位置に立ったことがない。

3. 「着任後90日で、誰と何を決めますか」

90日の計画が社内の施策だけで埋まる候補は、株主対応を仕事と見ていない。この型では、最初の90日の半分は株主側の意思決定の作り方に使われる。

4. 「使えなくなるものは何だと思いますか」

分社前に親会社が担っていた機能を、具体名で挙げられるか。挙げられる候補は、切り出された会社を一度経験している。

レファレンスで聞くこと

本人の説明からは出てこないものを取りにいく。聞く相手は、上司よりもその人と利害が一致していなかった人がよい。相手側の株主、本社の管理部門、合弁相手の役員である。

  • 板挟みになったとき、情報を止めたか、両方に同じことを言ったか
  • 合意が取れない案件を、放置したか、分解して小さく通したか
  • 自分の提案が否決されたあと、次に何を持ってきたか

三つめが最も効く。否決のあとに同じ案を角度だけ変えて出し直す人と、否決の理由を要素に分けて片方だけ先に通す人は、50:50では結果が大きく変わる。

報酬と契約で先に決めること

50:50の非上場会社では、株式インセンティブの設計が効きにくい。出口の時期と形が株主の合意事項であり、社長が見通せないからだ。LTIを置いても、評価の基準日と出口が結びつかない。

  • 代替として、中期の事業指標に連動する現金のLTIを置く。指標は両株主が合意した事業計画のものに限る。 片側の都合で動く指標を入れると、評価のたびに株主間の争点になる
  • JVが解消された場合、一方が買い増した場合、第三者へ売却された場合の処遇を、オファーの時点で契約に書く。 この型で最も起きる離任事由はこれである。書いていなければ、着任一年で交渉が始まる
  • 報酬の支払主体と評価者を一文で決める。評価者が二社の代表二名のままだと、評価そのものが合意事項になり、毎期止まる

Base・STI・LTIの配分の考え方はPEファンド投資先の役員報酬はどう決まるかに整理した。この型で足すのは、上の三点でよい。

公表から譲渡までの一年を、どう使うか

この案件の譲渡予定日は2027年10月である。公表から実行まで約一年ある。TOBの公表から決済までが数か月であるのに比べ、この空白は構造上長い。

一年は、経営体制を作る側には有利に使える。同じ要件に当てはまる候補が複数いる領域は狭いので、母集団の形成をクロージング後ではなくこの期間に始められるかどうかで、選べる人の数が変わる。

一方で、既存の幹部にとっては、処遇が決まらないまま一年待つ期間になる。 退任・転籍・残留のどれになるかが示されない状態が長引けば、意思決定の中心にいる人から動く。買い手が必要としていた人の離職は、クロージング後ではなくこの期間に起きる。

だからこの一年にやるべきことは、候補者探しと同時に、残ってほしい人へ何をいつ伝えるかの順序を決めることである。先に外から入れる人の話が漏れて、中にいる人への説明が後になる順序は、両方を失う。

まとめ

  • 50:50では決裁の最終審が二つになる。社長の仕事は、決めることから決まる状態を作ることへ移る
  • 要件は「事業を伸ばした実績」ではなく「権限が足りない状態で他者の決裁を通した実績」に置き換える
  • 両株主の拒否権の一覧が紙になっていない段階では、候補者に説明できる職務が存在しない
  • LTIは出口に紐づけず、JV解消・買い増し・第三者売却時の処遇をオファー時点で契約に書く
  • 公表から譲渡までの一年は母集団形成に使える。同時に、既存幹部の離職が最も起きる期間でもある

要件定義から選考・口説きまでの進め方は投資先の経営体制づくりに整理している。