「代表社員として来てほしい」と言われたとき、確かめるべきことは肩書きの読み方ではない。その会社であなたが「社員(=出資者)」になるのか、それとも「法人である社員の職務執行者」になるのかで、立場の作り方と降りるときの手続きが別物になるという点である。

合同会社のトップは代表取締役ではなく代表社員と呼ばれる。これは呼び方の差ではなく、根拠になる条文が株式会社とは別だということだ。任期の規定がなく、取締役会も監査役も株主総会も要らず、決算公告の義務もない。株式会社なら会社法が自動で用意してくれる歯止めが、合同会社では定款に書かれていなければ存在しない。

本稿は、代表社員の席を打診された人が就任前に確かめる5点を、その仕組みから書く。

「社員」は従業員ではない

最初に、いちばん多い誤解をほどいておく。

合同会社の「社員」は従業員ではなく出資者である。株式会社の株主に相当する立場だ。だから「社員が3名の合同会社」は従業員3名の会社ではなく、出資者が3名の会社を指す。

※合同会社とは: 会社法が定める「持分会社」の一種で、出資者(社員)の責任が出資額までに限られる形態です。株式会社と違い、出資者がそのまま業務執行にあたることが原則の設計になっています。株式を発行せず、出資の持分を持ちます。

この設計の違いが、以下すべての前提になる。株式会社は「お金を出す人(株主)」と「経営する人(取締役)」を分けることを前提に組まれている。合同会社は両者が同じ人であることを前提に組まれている。

なぜ外資とファンドは合同会社を使うのか

打診された会社がなぜこの形態なのかを知っておくと、席の性質が読める。理由は主に3つある。

1. 機関設計が要らない。 株主総会・取締役会・監査役といった機関を置く必要がない。意思決定は社員(出資者)の間で完結する。親会社が100%出資なら、親会社が決めればその場で決まる。

2. 決算公告の義務がない。 会社法が決算公告を義務づけているのは株式会社である。合同会社にはこの義務がない。業績を外に出さずに日本で事業を営める。

3. 定款で設計を変えられる範囲が広い。 持分会社は定款自治の幅が株式会社より広く、損益の分配比率や業務執行の取り決めを出資比率と切り離して設計できる。

結果として、外資系企業の日本法人、PEファンドの投資ビークル(買収のために作る持株会社やSPC)、共同事業のための合弁会社に、この形態が多く使われている。

ここから読み取れることが1つある。**合同会社は「速く決める」ために選ばれている形態である。**速く決まるのは、裏返せば株式会社なら取締役会や監査役が担っていた牽制が、構造として置かれていないということだ。あなたの裁量が広いのではなく、牽制の相手が親会社ひとつに集約されている、と読むのが正確である。

確かめる1:登記に自分の名前はどう出るか

これが最も重要な確認事項である。

合同会社の代表社員になるには、原則としてその会社の社員(出資者)であることが必要になる。業務を執行する権限は社員が持つのが原則で、定款で業務執行社員を絞り、その中から代表社員を定める形になっている。

ところが会社法は法人が社員になることを認めている。そして法人が業務執行社員になる場合、その法人は業務を実際に行う人を職務執行者として選び、その氏名を登記する。

実務では、こちらの形が多い。親会社(法人)が社員で、あなたはその親会社が選んだ職務執行者として現場のトップを務める。つまり、

  • あなた自身が社員(出資者)になる形: 出資し、持分を持ち、代表社員として登記される
  • 法人社員の職務執行者になる形: 出資はせず、持分も持たない。登記上は「代表社員 ○○株式会社/職務執行者 あなたの名前」と出る

この2つは、名刺の肩書きが同じ「代表社員」でも中身が違う。後者であれば、あなたの立場は親会社の社内手続き(誰を職務執行者にするかの決定)に紐づく。親会社が職務執行者を替えると決めれば、それで替わる。

打診の段階で「自分は出資者として入るのか、職務執行者として入るのか。登記はどう出るのか」を聞くこと。この質問に即答が返ってこない会社は、席の設計をまだしていない。

確かめる2:任期がないことの意味

株式会社の取締役には任期がある。原則2年、非公開会社なら定款で最長10年まで延ばせる。任期が切れれば改めて選任の手続きが必要になり、そこが節目になる。

合同会社の社員・業務執行社員・代表社員に、この任期の規定はない。

これは良い話にも悪い話にもなる。任期ごとの再任審査に晒されないという意味では安定している。一方で、自動的に訪れる区切りがないということでもある。

だから確かめるのは次の点だ。

  • 自分が退く/退かされるとき、どういう手続きを経ることになるのか
  • その手続きは定款のどこに書かれているのか
  • 職務執行者として入るなら、親会社のどのレベルの決定で替えられるのか

株式会社なら「任期満了で再任されなかった」という穏当な終わり方の形が用意されている。合同会社でその形が欲しければ、契約や内部の取り決めで作っておくしかない。

確かめる3:定款に何が書かれているか

株式会社では、定款に書いていないことは会社法の規定がそのまま効く。合同会社は定款自治の幅が広いため、定款に書いていないか、書いてあるかで、結論が大きく動く領域が広い。

就任前に定款を読ませてもらい、少なくとも次を確認する。

  • 業務執行社員は誰か。自分は含まれるのか
  • 代表社員はどう定められているか(定款で指名されているのか、社員の互選なのか)
  • 損益の分配はどう定められているか
  • 社員の加入・退社の手続き
  • 定款を変更する手続き(原則は総社員の同意だが、定款で別に定めることができる)

「定款は見せられない」と言われたら、それ自体が情報である。これから代表社員として登記される人に対して、自分の権限の根拠となる文書を見せない理由は、通常ない。

確かめる4:親会社の承認がどこで要るか

合同会社には取締役会がない。だから「取締役会決議が必要な事項」という形の歯止めも存在しない。ではあなたの裁量は無限か。そうではない。

牽制は親会社の内部規程に移っている。日本法人の代表社員が自分で決められる金額の上限、人事の範囲、契約の種類が、親会社(多くは海外本社やファンド)のルールで決まっている。これは会社法ではなく相手の社内文書に書かれているので、登記簿や定款を見ても出てこない。

面談で聞くのは次の2つである。

  1. 「私の決裁で動かせる金額の上限はどこですか」
  2. 「親会社の承認が必要になる事項を、具体的に3つ挙げてもらえますか」

答えが「基本的にお任せします」であれば、それは設計されていないという意味に取る。権限の広さは言葉ではなく文書で確かめる。この点は株式会社の代表取締役として入る場合と同じ構造で、「権限はお任せします」を確かめる方法にも書いた。

確かめる5:報酬はどこで決まるのか

株式会社の取締役の報酬は、定款または株主総会の決議で決まる仕組みになっている。金額の決め方に、会社法が枠をはめている。

合同会社にはこの枠がない。株主総会がないのだから、株主総会決議もない。報酬は社員間の取り決め、定款の定め、あるいは会社とあなたの間の契約で決まる。

したがって確かめるのは「相場はいくらか」ではなく、どの文書に、誰が、どういう手続きで決めると書いてあるかである。

  • 報酬を定めているのは定款か、社員の決定か、個別契約か
  • 改定するときは誰の同意が必要か
  • 業績連動の部分があるなら、その指標は何で、誰が確定させるのか

職務執行者として入る場合、報酬を払う主体が日本法人なのか親会社なのかも分かれる。親会社からの支払いになるなら、日本法人の業績が良くても悪くてもあなたの処遇は親会社の判断で動く。

なお、社員(出資者)として入る場合、受け取るものは報酬だけではなく損益の分配が加わる。分配の比率は出資比率と一致させなくてもよいので、ここは定款を見ないと分からない。

経歴としてどう読まれるか

最後に、キャリア上の扱いについて。

「代表社員」という肩書きが「代表取締役」より軽く読まれることはない。選考で読まれているのは会社の形態ではなく、あなたが何を預かり、どこまでを自分の判断で動かしていたかである。これは肩書きの名前では伝わらない。日本で「CEO」は法律上の役職ではないという話と同じで、同じ名前でも中身が三通りに分かれる。

ただし、職務経歴書の書き方には一手間が必要になる。「代表社員」とだけ書くと、読み手はあなたが出資者だったのか職務執行者だったのかを判断できない。この2つは預かっていたものが違うので、書き分けないと経験が正しく測られない。

書くべきは次の3点である。

  1. 立場(社員として出資していたのか、法人社員の職務執行者だったのか)
  2. 預かっていた範囲(売上・人数・拠点、そして決裁の上限額)
  3. 誰に対して責任を負っていたか(親会社のどのレイヤーに報告していたか)

特に3点目が効く。合同会社の代表社員は、株主総会ではなく親会社に対して直接責任を負う。**この距離の近さで仕事をしてきた経験は、ファンド投資先の経営のように株主と至近距離で働く席で、そのまま読まれる経験になる。**株式会社の代表取締役として分散した株主の前に立っていた経験とは、求められた筋肉が違う。どちらが上という話ではなく、次の席を選ぶときに自分がどちらを積んできたかを知っておく、という話である。

役員として迎えられる立場そのものの不安定さについては、CEO・取締役は「正社員」ではないに書いた。委任の構造は合同会社でも変わらない。

まとめ

代表社員の席は、代表取締役の席より権限が広いわけでも狭いわけでもない。会社法が自動で用意する枠組みが少なく、その分を定款と親会社の規程と契約で埋めている席である。埋まっていなければ、就任後に埋めることになる。

就任前に確かめるのは次の5つだった。

  1. 登記に自分の名前がどう出るか(社員なのか、法人社員の職務執行者なのか)
  2. 任期の規定がない中で、退く手続きはどう定められているか
  3. 定款に何が書かれているか(業務執行社員・代表社員の定め方・損益分配・定款変更)
  4. 親会社の承認が必要な事項と、自分の決裁の上限額
  5. 報酬を決める文書と、改定の手続き

5つとも、聞けば答えが返ってくる質問である。答えが返ってこないこと自体が、その席がまだ設計されていないという情報になる。

具体的な条文の解釈や登記の扱いは、個別の定款と事実関係で変わる。就任の判断に関わる部分は、弁護士や司法書士に実際の定款を見てもらうことをおすすめする。

ペルソナ株式会社では、PEファンドの投資先や外資系企業の日本法人を含め、公開されていない経営ポジションを扱っている。こうした席の立場の作り方や確認の順番も含めて、経営人材としてのキャリアの相談を受けている。